アークナイツ13章「悪兆渦流」感想

 

概要

本記事はアークナイツメインストーリー13章「悪兆渦流」の感想記事です。注意事項は以下の通りです。

この記事がやること

  • 膨大な13章から自分が気になった箇所について取り上げて考えをまとめる

この記事がやらないこと

  • ストーリー全体をまとめて時系列やテーマなどを通して解説をする(他に素晴らしい方がやってくれているので)
  • 他のイベントや史実と詳細に突き合わせることで考察を試みる(む、難しいので)

章全体の感想

陣営同士の勢力関係の点から見ると、ヴィクトリアに来てから大局的には防戦一方で、特に前章では自救軍の基地が壊滅的な損害を受け散り散りなっていたロドス側陣営が、それぞれの戦いを切り抜けて再集結。ブラッドブルードの大君を打ち倒し反撃の切り札となり得るライフボーンを奪取したことで反撃の狼煙をようやく上げられたのかなという印象でした。12章まではひたすらプロットに殴られ続けて読むのが本当に辛かったんですが、13章でそれが少しだけ和らいだ気がします。

 

もともとヴィクトリア編にて利害が衝突しうる主要な団体は以下の4つがあると思っています。

  • ロドス(+ロンディニウム市民自救軍のようなヴィクトリア市民有志たち)
  • ロンディニウムを占拠しているサルカズ
  • これを警戒しつつもお互いが牽制をしているせいで動きが遅いヴィクトリア貴族陣営
  • ターラー人の復権を目指すダブリン

さらにここへ、今のところ大きな利害衝突はしそうにないけど、感染者、あるいは被差別者の生きる道を探し求める新生レユニオンが入ります。以上のように非常にたくさんの陣営が絡んでいるんですが、今回詳しく描写されたのはロドスとサルカズの間の勢力関係の変化と、レユニオンの目的意識の変容くらいなので、事態の収束にはまだ暫くかかりそうな気がします。

 

9章から始まった2部のボリュームも既にえらいことになっていて、現状ヴィクトリア要素はあまり描かれておらずロドスとサルカズ間の描写が多いので、一旦サルカズとの問題に一応の決着をつけて2部を終幕させ、その後のヴィクトリアの問題(貴族、ダブリン、ヴィーナたちの三すくみになるのかな)は第3部やサイドストーリーで描かれるのかもしれないですね。

 

特に印象に残ったこと

本説では13章の中で特に印象に残った箇所をピックアップして感じたことをまとめます。

冒頭のカジミエーシュの記者の会話

13-1と言えば思想統制ではなく食料を調達するために焚書を行うサルカズ兵たちの一幕も印象でしたが、私はこちらも印象に残りました。非常に風刺が効いててきっついなぁと思いながら読んでました。現在進行形で行われている人権の蹂躙も、略奪や虐殺も、その外にいる彼らからしたら、「どうしたら購買意欲を掻き立て消費を促して自分たちの財布を潤すことができるか」という観点において他のゴシップなどと変わらないということが表現されています。あらゆるものの価値を貨幣で数値化することにより市場による取引を推進しようとする商業主義が内包する危うさが、2人の記者のこんな短い会話で端的に表現されていると思います。彼らは自分の明日の生活を守るために目の前の仕事で成果を上げなければならないが、成果を上げることと遠くで起こっている惨事の解決に助力することが一致していないという市場の構造ゆえに起きる問題だと思います。

カジミエーシュの記者の会話
新しいテキスト演出と、それとドクターの関係

私の勘違いでなければ今章から、独白や地の文を中心として、従来の画面下の数行だけに留まらずに画面全体を使ってテキストを表示する演出が入ったと思います。

画面全体に表示されるテキスト

これはまず実用的な面から言って非常にありがたかったです。文章量がかなり多いタイプのゲームなので、画面下でちまちま表示されるよりはドカっと画面いっぱいに表示された方が個人的には読み易く感じました。また、この演出ができるようになったことにつられてかはわからないですが、キャラが心のうちを述べる演出が増えたような気がします(気のせいかも)。

 

さらにドクターが他者の独白的なものの中でひとりでに喋っている箇所もあって、ドクターの人格がプレイヤーから離れていってるのかな?と訝しんだのですが、1つ前の引用画像ではドクターのことを指して「あなた」と言っているし、これより後の時系列であるたくさんのサイドストーリー(例えば孤星とか)でもこのようなことは感じなかったので、きっと思い違いでしょう。

 

この演出ができるようになったことでドクター以外が一人称となった独白がたくさん出てきてよりストーリーを俯瞰的に楽しめるようになりました。アークナイツは様々な立場にいる人たちをそれぞれひどく丁寧に描写することで出来事をより多面的に捉えてもらおうとする物語だと思うので、この演出とシナジーがあると感じました。

一人称視点がLogosの状態でひとりでに喋るドクター
Wについて

今回のストーリーで、Wのことをもう一段深く好きになれたという話です。私はアークナイツをリリース1ヶ月後くらいからプレイしているのですが、そのきっかけとなったのがWでした。当時はまだハマれるスマホゲーを探している最中で、アークナイツも5章あたりで引き込まれるまでは様子見という感じでした。そんな中では好きな造形のキャラがいるかどうかはモチベーションの維持に大きく貢献しますし、その唯一のキャラがWだった当時の自分にとっては、Wがこのアークナイツの広大な世界に連れてきてくれたと言っても過言ではないです。

 

初めこそ「自分の意思を持ち、その信念のために他者を害するキャラ立ちする敵側の女性キャラ」という記号から好きになったWでしたが、闇夜イベや7、8章でその内面の描写が増えてきたことで、Wという人間自体が魅力的に感じるようになりました。

8章での一幕

13章では彼女のことをよく知るヘドリー、イネスと共に行動することで、否応なしに自分の心と向き合わざるを得なくなる場面がありました。13-17でヘドリーに、今のテレジアに対する自分の疑念を突かれた時のことです。狂人の仮面を被ることによって自分の心を外界から守っている(と解釈している)Wがそれを外して驚くほど純真な本心が吐露されるところがとても好きで、今回も彼女がどれだけテレジアのことを慕っているか、そして彼女がサルカズの未来がどうあって欲しいと考えているかを垣間見ることができてよかったです。また今回Wは文字の読み書きができないことも明かされました。闇夜で彼女の境遇を知っていると察するにあまりあります。おそらく物心ついた時から裏切りと殺戮しか生きる手段がなかった彼女がここまでの純真さを備えているのは奇跡に近いと思うんですが、それができたのはきっとヘドリー、イネスの部隊に拾われたからなんだろうなと思ってます。

13-17での一幕

イネスのセリフでも匂わされていたように、今後Wの内面に大きな変化があり、さらに成長した姿を見せてくれるような気がします。個人的には読み書きができるようになって、いろんな本を読んでいろんな思索に耽って欲しいです。そしてそれを受けて彼女が何を思ったのか、今後の物語で少しても教えてくれると嬉しいです。

レユニオンとGuard君あれこれ

13章はレユニオンにもたくさんスポットライトが当たったおかげで、彼らがどのような日常を送っているのかを想像しやすくなりました。医療品も食料も安定に確保できない中でさらに行き場をなくした人たちを受け入れていくので彼らは困窮するばかりです。さらに、受け入れられる人たちの多くは大切なものをなくしてしまったり、あるいは最初からそんなものを持つことすらできなかった人たちで、もしかしたら冷静に物事を考える余裕がなくなって攻撃的だったり、新たなトラブルを呼び込む可能性も低くはないでしょう。彼らの掲げている名前やその集団が持つ属性から憎悪や差別を向けられることは少なくなく、望まぬ武力衝突も珍しくない。現代の読者の環境から見ればとても冷静でいられるような状況ではないし、自分だったらとっくに心が折れているだろうと感じることばかりでした。それでもレユニオンの人たち(特にナイン、レイド、パーシヴァル、Guardなどのネームドキャラ)は冷静さを失わず、感情を荒立てず、淡々とことにあたっていたのがすごく印象的でした。今回Guard君のビジュアルが公開されて、その表情が思いの外疲れ切っている様子だったのがこの印象に拍車をかけました。きっと、日常的に見舞われる苦難にいちいち感情的になっていると心がもたないからというのもあると思いますが、彼女たちの紛れもない強さも感じました。

 

密造工場にて

 

今回のレユニオンのことを考えると、13-2の戦闘後のチャプターで2曲目に使われたBGMのことがいつも頭によぎります。安らかではあるけどどこか暗い感じがして、曲調に上がり目もなく淡々と同じことが続いていく、自分の直観で表現するなら「優しい絶望」とでも言えるような曲で、上述したレユニオンの状況にひどくあってしまっているようでした。でもすごく好きです。ちょっと違うんですが、某サイコホラーゲームの「流れとよどみ」を思い出しました。なお、この曲は今回が初登場だと思うのですが、検索しても曲名が出てこないので、毎回13-2戦闘後のチャプターを再生してこの曲を聴いています。何か情報を持っている方がいたら教えてくれると嬉しいです。

 

そして最後にGuard君ですよね。

Guardの心象と最期の景色

彼が冒頭に見た心象と彼が最期に見た景色で使われているセリフが同じです。心象の方でこの太陽は、Ace、Scout、パトリオットが成し遂げたことの比喩として光り輝いていました。彼を覆い尽くしたこの炎も太陽であること、そして彼が最後に遺した言葉をナインが何度も繰り返し聴き、レユニオンの行く道が定まったこと。これらを考慮すれば、Guardという人間が新生レユニオンに何をもたらしたのか、彼ら彼女らにとってGuard君がどういう存在だったのかを窺い知ることができます。彼は当初は顔も名前もなかった無名氏で、素顔が公開された後も特別大きな力を得たわけではない、能力的には極々普通の人なんだと思います。そんな平凡な彼だから、最後は彼が目指した太陽に、光り輝く熱い炎に潰されてしまったかもしれないけれど、そんな平凡な彼だからこそ、等身大のまま苦難に向き合っていた姿を私は忘れることができません。

 

最後に

13章ではロドス側が少し勢力を盛り返す形になったけど、読み終わった後のスッキリ感はやっぱり全然なかったです。今後アーミヤたちがどんな絶望的な状況を跳ね除けたとしても、その道中で失ったものは帰ってこず、それはあまりにも多く、そしてその描写も非常に丁寧にするアークナイツだから、そういう意味でアークナイツは絶望を描く物語なんじゃないかと思います。露悪的に絶望を描いて描きっぱなしにするのではないだけで、暗い話ではあると思います。でもそれでよくて、この恐ろしく丁寧に描写される世界を俯瞰することでたくさんの思考のきっかけ、感情の揺らぎをもたらしてくれるアークナイツの物語が大好きです。

 

また、個別に取り上げた箇所以外にも見どころはまだまだたくさんあって、目の付け所は人によって全然違うと思います。だからこそその人の着眼点には価値があるので、皆さんのお気に入りのお話も教えてもらえたらと思います。

 

以上です。